バレット食道

「胃カメラ検査をうけたらバレット食道と言われました。食道癌になりやすいときいたことがあるのですか。」と、質問されることがあります。
バレット粘膜とは、胃から食道に連続的にのびる円柱上皮化生(もともとの食道の扁平上皮から胃のような円柱上皮に置き換わったこと)のことであり、バレット粘膜を有する食道をバレット食道といいます。
多くは、逆流性食道炎のために炎症と修復を繰り返し、扁平上皮が刺激に強く酸環境に適した円柱上皮に置き換わった状態です。「バレット食道」で検索すると、食道癌になりやすく、定期検査が必要と記載されております。どのような関係があるのでしょうか。

バレット食道の定義と診断

胃カメラ検査で診断を行います。胃と食道の間の白色の扁平上皮と、赤色調の円柱上皮の境界(squamocolumnar junction)が、柵状血管の下端より口側に認めることで、バレット食道と診断します。

 

バレット食道の分類

バレット食道画像

バレット粘膜が全周性に3cm以上認めるものが Long segment Barrett esophagus (LSBE)

バレット食道画像2

バレット食道が上記以下のものが short segment Barrett esophagus (SSBE)と定義されています。

バレット食道の原因

胃酸が食道に逆流し、食道本来の扁平上皮が炎症と修復を繰り返すことで、刺激に強く酸環境に適した円柱上皮に置換された状態です。
バレット食道のリスクは、びらんを伴う逆流性食道炎で、4-5倍程度リスクが上がるとされています

バレット食道の症状

バレット食道自体には症状はありません。バレット食道の原因となる逆流性食道炎による胸焼け、胸がつまるような症状がみられることがあります。

バレット食道の頻度

バレット食道のうち、範囲が狭いSSBEは内視鏡をうける方の20%程度、範囲が広いLSBEは0.4%にみられると報告とされております。
SSBEは多くの方にみられますが、LSBEはかなり頻度が低いです。

バレット食道の発癌率

胃カメラ

バレット食道は、腺がんの発生母地となるという点で注目されております。米国においては、バレット食道がんが急速に増加し、食道がんの70%程度までいたっております。いまのところ、バレット食道のうち、発癌のリスクが明確なのは、腸上皮化生をもつ3cm以上のLSBEのみです。その発癌リスクは1年あたり0.4%と報告されています1),2)
日本においても、食生活の欧米化、肥満の増加、ピロリ感染率の低下などから今後バレット食道がんの増加が懸念されております。日本食道学会の食道癌登録によれば、2011年の食道悪性腫瘍に占める腺癌の頻度は、4.0%でした。1988年の1.4%に比べると、2倍以上に増加しております。ただ、2004年の報告でも4.0%であり、急激な増加はみられておりません。日本では、ほとんどの食道がんは、アルコール、喫煙などが原因で発生する扁平上皮がんです。
SSBEとLSBEでは、発癌率に大きな違いがあります。最新の報告では、バレット食道の発癌率は、LSBEで0.22%、SSBEで0.03%と報告されています3)。LSBEは、SSBEに比べると発癌率が高く、バレット粘膜の長さも癌化の危険因子の一つとされています。とくに高齢男性、喫煙、バレット食道の長さが長いことなどがバレット食道癌のリスクとされています。
胃食道逆流症診療ガイドライン2015改訂第二版 4)では、バレット食道から発生した腺癌の頻度は極めて低く、現時点でバレット食道全例に内視鏡による経過観察が必要かは不明であるとされています。アメリカのガイドラインにおいて、異形成がなければ3-5年ごと、異形成が疑われれば1年ごとの生検を含めた内視鏡検査が推奨されています。

バレット食道の治療

バレット食道の治療は、バレット食道をこれ以上広げず、食道がんを予防することが治療になります。2004年に前向き研究によりPPIがバレット食道癌の発癌に抑制的に働くと報告されています。他の報告でも、発癌を最大0.2倍まで低下させる5)、発癌を71%抑制する6)など、PPIの発癌抑制効果はほぼ確実です。バレット食道のすべての方に定期的な内服は必要ではありません。LSBEの方、逆流性食道炎の症状も頻繁にみられる方、内視鏡でのびらんが強い方には定期的なPPIの内服をおすすめしております。

1)De Jonge PJ et al. Gut 2010; 59:1030-6.
2)Sharma P et al. Clin Gastroenterol Hepatol 2006;4:566-72.
3)Heico P et al. Gut 2016; 65:196-201.
4)日本消化器病学会(編).胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2015.改訂第二版,南江堂,東京,2015;129-40.
5)Kastelein F et al. Clin Gastroenterol Hepatol 11; 382-388: 2013
6)Singh S et al. Gut 63; 1229-1237: 2014

まとめ

診察

バレット食道は、食道腺癌のリスク因子です。しかし、範囲が狭いSSBEの発癌率は極めて低く、心配ありません。毎年の定期検査は推奨されておらず、最短でも3年間隔とされています。バレット食道が広いLSBEの方は、1年ごとの定期的な経過観察が必要です。
逆流性食道炎の炎症、症状が強い方、LSBEの方は定期的なPPI内服が必要です。

 

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