このような症状は、虚血性腸炎による症状です。
おしりからの出血の原因で、もっとも多いのは痔です。
次が大腸憩室出血、その次が虚血性腸炎と報告されています1)。
虚血性腸炎は、おしりからの出血の原因として頻度が高い病気です。
今回虚血性腸炎の原因や治療、食事や注意すべきことに関して記事を書きました。
虚血性腸炎とは
虚血性腸炎とは、大腸に栄養を送る血管の血流が阻害されることで、
大腸の粘膜障害が起き、粘膜のびらんや潰瘍などが生じる病気です。
微小循環障害が原因であり、主な太い動脈がつまったわけではありません。
虚血性腸炎の症状
虚血性腸炎では、下腹部痛、下痢、血便の症状が起こります。
同時にこれらの症状が起こるわけではありません。
①急な強い下腹部痛
↓
②多量の下痢
↓
③血便
という順番で症状が起こります。
一過性型の90%はこのような経過で発症するため、
症状、経過だけで病気の診断をすることができます。
吐き気、嘔吐の症状を伴うことがあります。
主な症状は24~48時間でおさまり、内視鏡での所見も2週間以内に改善します。
虚血性腸炎後に大腸が狭くなる(狭窄)ことがあります。
虚血後の狭窄についても多くは1-2年で改善することが多いです。
虚血性腸炎の原因
虚血性大腸炎は高齢者に多い病気です。
従来は動脈硬化の強い高齢者の病気とされてきましたが、若年者にも起こります。
発症の前に便秘、下剤による下痢、トイレでのいきみ、浣腸などが50%程度の方にみられます。
女性が男性の2-3倍程度おこりやすいです。
基礎疾患として腸管側の因子、血管側の因子があるとされています。
腸管側の因子は、特に便秘がリスクファクターです。
血管側の因子は、高血圧、脳梗塞、虚血性心疾患、糖尿病、血液透析などが挙げられています。
多くの虚血性腸炎は軽症です。
血管側の因子もある方は、重症の虚血性腸炎になることがあります。
虚血性腸炎の診断
典型的な経過から虚血性腸炎の診断が可能です。
採血やCT検査でS状結腸から下行結腸の壁肥厚を認めます。
大腸内視鏡検査では、S状結腸から下行結腸にかけて、発赤、浮腫、出血、縦走潰瘍がみられます。
一見潰瘍にみえても表面のびらんであることがほとんどで、
1―2週間で粘膜は修復され、後に瘢痕(傷痕)が残らないことが多いです。
米国消化器病学会の診療指針では発症48時間以内の大腸内視鏡検査による診断を推奨しています。
ただし、さらに虚血や穿孔の原因とならないよう、できるだけ腸を拡張しないように行う必要があります。
大腸の内視鏡検査は早期には行わず、待機的に行うほうがよいと思います。
虚血性腸炎の治療
症状、内視鏡像、炎症所見などから重症度を判定し、治療方針を決定します。
ほとんどの方は、虚血性腸炎は、特別な治療は必要せずに治ります。
整腸剤、水分摂取、経過観察で十分です。
強い腹痛、発熱、内視鏡の所見でチアノーゼ所見を認める場合は、
腸管安静、点滴のために入院が必要になる場合があります。
さらに壊死性の虚血性腸炎の場合には、
壊死した腸管を切除する手術が必要になることがあります。
動脈硬化などのリスクが高い高齢者にまれにおこります。
虚血性腸炎におすすめの食事
虚血性腸炎の主な症状は24-48時間でおさまります。
数日は腸になるべく負担にならない食事が望ましいです。
まずは、水分をとって痛みや症状が悪化しないか様子をみてください。
問題なければ油ものや刺激物を避けて、少しずつ食事をふやしていってください。
虚血性腸炎は繰り返すのか
虚血性腸炎の再発は約10%にみられると報告されています。
再発は同じ部位が多く併存疾患がある方が多いです。
普段から便秘をしないことで再発を減らせる可能性があります。
虚血性腸炎と大腸がんの関係について
大腸がんによる閉塞の結果、閉塞部位の口側に虚血性腸炎をきたすことがあり、閉塞性腸炎と呼ばれています。
閉塞性大腸炎は大腸癌の0.3~2%、閉塞症状を伴う大腸癌の6%に合併するとされています。
虚血性大腸炎に疑った場合、大腸癌により閉塞性大腸炎を生じている可能性も考慮すべきです。
積極的に大腸内視鏡検査を行い、
虚血性大腸炎の肛門側の大腸癌の有無についての検査が必要です。
特に高齢者や非典型例では、必ず内視鏡による大腸がんの除外が必要です。
まとめ
虚血性腸炎は、腹痛、下痢、血便という経過で発症する比較的頻度が高い疾患です。
高齢者だけでなく、若い女性の方もなりやすい病気です。
自然に改善することが多いですが、大腸がんが隠れている可能性があります。
高齢の方や典型的な症状でない方は大腸内視鏡検査をおすすめしています。
1)Aoki T et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2016 Nov;14(11):1562-1570
院長 中谷行宏
私は消化器病専門医、内視鏡専門医として診療を行っております。
月200件以上の胃カメラ、大腸カメラ検査を行っています。