胃潰瘍の原因
胃潰瘍の原因としては、ピロリ菌、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、低容量アスピリンがあげられます。胃潰瘍は、年齢が高くなるほど発症する人が多くなり、これはピロリ菌の感染率とほぼ一致しています。
現在はさまざまな基礎疾患をもつ高齢の方が増え、NSAIDsや低用量アスピリン、抗血栓薬、抗凝固薬が原因となる胃潰瘍が増加しています。胃液は、食べたものを消化したり、細菌を殺菌したりしますが、胃の粘膜を壊すこともあります。
胃の粘膜を胃液や様々な刺激から保護し、粘膜障害を防止しているものは、主に胃粘液です。また、重炭酸分泌、粘膜血流、プロスタグランジンなどが防御因子にあげられます。
近年まで広く用いられてきた胃潰瘍の原因はバランス説です。酸、ペプシンに代表される攻撃因子と、粘液血流などの防御因子とのバランスが保持されている場合には、潰瘍が発生しないが、このバランスが乱れたときに潰瘍が発生するというものです。この説もさまざまな問題点が指摘されています。
今は、胃酸の存在下にピロリ菌、NSAIDsが主な発生要因とされています。ストレスも誘因の一つとされています。
ピロリの感染にストレスが加わったときに胃潰瘍が発症するという説が有力です。ストレス単独で潰瘍が発症するかはまだわかっておりません。
ピロリ菌と胃潰瘍
ピロリ菌は、胃内に生息するグラム陰性桿菌で、以前は衛生環境が悪く、井戸水を飲んだなどで感染したとされています。現在は、家族、母子感染が主体です。
胃潰瘍の80-90%はピロリ陽性です。ピロリ菌がつくるアンモニアやサイトカインなどの粘膜障害作用が原因と考えられています。
NSAIDs潰瘍
解熱剤の非ステロイド性抗炎症薬は、ピロリ感染に次ぐ胃潰瘍の原因と考えられています。
NSAIDs潰瘍は、胃の幽門部から前庭部に好発し、症状のない多発潰瘍が多いです。
NSAIDsは、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害作用を介して、胃粘膜防御機構で最も重要なプロスタグランジンの生合成を抑制するためと考えられています。
特発性胃潰瘍(ストレスなどによる胃潰瘍)
高齢や背景疾患、ストレスなどが誘因で胃潰瘍になることがあります。酸分泌能の亢進、高ガストリン血症、胃排泄能の亢進などが関与すると考えられています。
以前はピロリ菌による胃潰瘍が多く、全体の1%程度でしたが、今後はピロリ感染率の低下から増加する可能性があります。
胃潰瘍の検査
胃潰瘍を疑わせる症状で受診されると、まず必要な検査は胃カメラです。胃カメラで潰瘍があるかどうかを含め、症状の原因を検査します。
胃潰瘍は、胃酸を抑制する薬で治療します。出血が続いている場合には、内視鏡で止血処置が必要になることがあります。
胃潰瘍の治療
内科的薬物治療で治癒が得られることが大部分で、胃酸分泌の最終段階を阻害するプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor ; PPI)を使用することが多いです。80-90%の治癒率が得られ、なかなか治らない難治性の胃潰瘍はきわめてまれです。
近年PPIではなく、さらに胃酸抑制効果が強いP-CABが使用されてことも多くなっています。胃潰瘍の原因はピロリ菌の感染によるものが多いため、通常ピロリ菌の検査も行います。ピロリ菌感染が確認できた場合は、除菌治療を行います。
胃潰瘍の再発
日本での多施設共同研究では、除菌成功確認後4年間の経過観察中に、3.02%(149 / 4,940)の潰瘍再発を認めたと報告されております。
NSAIDs使用者を除くとさらに再発率は低いとされています1)。通常ピロリ菌の除菌後に再発を心配する必要性はありません。
鑑別診断
胃潰瘍の急性期は、炎症や浮腫によって胃がんと鑑別が必要になる場合があります。良悪性の鑑別のために観察と同時に潰瘍辺縁から組織検査を行うことが重要です。
胃の症状はお早めにご相談ください
現在ドラッグストアでもガスター(H2blocker)など胃薬を気軽に購入できるようになりました。これらの薬剤も一時的には症状を改善させますが、ピロリ菌の感染が原因であれば、同様の症状を繰り返します。あまり無理をせず医療機関の受診をおすすめします。
1)Miwa et al. Helicobacter 9:9-16, 2004