過敏性腸症候群

過敏性腸症候群

[irritable bowel syndrome(IBS)]とは

腹痛腹痛下痢便秘などの便通の異常が繰り返し起こるにもかかわらず、胃カメラ、大腸カメラや採血などの検査を行っても原因となる病気がはっきりしない疾患です。下痢便秘などの便通異常の種類によって便秘型(IBS-C)、下痢型(IBS-D)、混合型(IBS-M)などに分類されています。
推定患者数は日本人の10-14%程度(約1700万人)ともいわれており、特に若年層に多い傾向があります。また、女性に比較的多いとされています。この疾患は命にかかわることはありませんが、症状のコントロールが難しく日常生活や仕事に支障をきたしているケースが多々あり、QOL(Quality of life)生活の質の低下が問題となっています。働く世代の方が多く、経済的な損失も大きい疾患です。慢性的な方だけでなく、何の問題もなかった方が胃腸炎のあとにIBSを急に発症することもあります。
食欲不振や胃痛などの胃の症状が合併している場合や不眠、不安感、抑うつ、頭痛、めまい、肩こり、のどのつまり感などお腹以外の症状を伴っている方もおられます。IBSの病状にはストレスが関与しており、ストレスを自覚した際に増悪します。

過敏性腸症候群の原因

感染性腸炎の後に発症する方がいらっしゃるので、何らかの腸の免疫異常やホルモンが関係していると言われていますが、いまのところはっきりとした原因は分かってはいません。

過敏性腸症候群の診断

大腸カメラ便秘や下痢の原因となる潰瘍性大腸炎大腸がんなどの器質的疾患ではないことを証明する必要があります。まずは大腸の内視鏡検査を行います。その他にも甲状腺の病気や膵臓の病気などでも同様の症状が出ることがありますので、採血や腹部超音波なども必要に応じて実施します。


過敏性腸症候群の国際的な診断基準

ROMAⅣ基準

  • 腹痛が最近3ヶ月のなかの1週間につき少なくとも1日以上を占め
  • 下記の2項目以上の特徴を示す
    (1) 排便に関連する
    (2) 排便頻度が変化に関連する
    (3) 便の形状が変化に関連する

ROMAⅣ基準では腹部不快感が削除され、腹痛のみになりました。しかし実際の現場では腹部不快感も診断の参考にしております。

過敏性腸症候群の病型

過敏性腸症候群は便の性状によって下のタイプに分類されます。便の性状は下のブリストル便性状スケールを用いることが多いです。

便秘型IBS(IBS-C)

硬い便またはコロコロした便が多く(25%以上)、軟便・泥状便または水様便が少ない(25%未満)

下痢型IBS(IBS-D)

硬い便またはコロコロした便が少なく(25%未満)、軟便・泥状便または水様便が多い(25%以上)

混合型IBS(IBS-M)

硬い便またはコロコロした便も軟便・泥状便または水様便もどちらもある(共に25%以上)。

分類不能型IBS

上記のいずれにも当てはまらない。

過敏性腸症候群の治療

食事療法

食事IBSの症状を誘発しやすい食品(脂質、カフェイン類、香辛料を多く含むミルク、乳製品など)を控えることが有効とされています。人によって症状が現れやすい食品があり、その食品は避けていただいたほうがよいです。
欧米では、短鎖炭水化物(fermentable(発酵性)、oligosaccharides(オリゴ糖)、disaccharides(2糖類)、monosaccharides(単糖類)、and polyols(糖アルコール))を多く含む食事を避けることがIBSの症状を抑えると報告されています。頭文字をとりFODMAPと呼ばれ、低FODMAP食がIBSの症状を抑えると報告されています。海外では比較的入手しやすいようですが、日本においてはあまり普及しておりません。

運動療法

運動運動療法は過敏性腸症候群に対して効果がある場合があります。ウォーキング、エアロビクス、水泳、ランニングなど、継続的に続けられる全身運動が効果的とされています。
IBSの症状だけでなく、倦怠感、胸焼け、満腹感などおなか以外の症状も改善したと報告されています。

薬物療法

過敏性腸症候群には、便秘型、下痢型、混合型などのタイプがあり、タイプに応じて治療方法が異なります。どの型にも共通してビオフェルミンやミヤBMといった整腸剤は効果があることがあります。
過敏性腸症候群の治療に使用される薬剤には、消化管運動機能調整薬、高分子重合体、セロトニン受容体拮抗薬、刺激薬、下痢止め、粘膜上皮機能変容薬など様々な薬剤があります。ただ、どんな方にも必ず効果があるという特効薬はなく、下痢型、便秘型、混合型などタイプにあわせて人それぞれ薬剤を調整していく必要があります。
その中でも、下痢型の過敏性腸症候群には効果がでやすい薬剤があります。

イリボー(ラモセトロン塩酸塩錠)

消化管運動亢進を助長するセロトニンの伝達経路を遮断することで、排便亢進や下痢症状を改善します。副作用は便秘です。緊張や、刺激があると下痢をしやすいような下痢型の過敏性腸症候群の方には、非常に有効な薬ですが、便秘になる可能性があるため、少量から使用します。
女性の場合には特に便秘になりやすいので少量から開始します。女性では2.5㎍から5 ㎍ 、男性は5 ㎍ から10 ㎍ で使用します。

漢方薬

例えば、大建中湯は日本で最も使用されている漢方薬で、排便回数や便性状を変えることなく、腹部膨満感症状を改善する効果が報告されています。
また、過敏性症候群の方は、心窩部痛、食後の膨満感などの機能性ディスペプシアを合併することが多い疾患です。過敏性腸症候群、機能性ディスペプシアどちらも漢方薬の助けが必要となることがあります。漢方薬も人によって効果に差があり、かなり効いた、全く効かないなど効果は様々です。それぞれの方にあわせた調整が必要です。
当院では、西洋医学、東洋医学も含めて、総合的に治療を行っております。下痢、便秘などのおなかの症状でお困りの方はお気軽に相談してください。

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